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「――と、ここまではいいよね?」
「土田さん……でしたね?」
二十代半ばと思しき青年は、確かめるように手にある名刺に目をやった。そこには『テレビNMプロデューサー 土田千早』と書かれていた。
「電話で何度もお答えしたように、僕は何も知りません」
「でも、君はあのサークルのメンバーだった。よね?」
「確かにそうでしたが、あの日、僕は体調不良で途中で帰ったんです」
「うん。それは何度も聞いたし、警察の調書にもそう書いてあるみたいだね」
「だったら、なぜ僕に付き纏うんですか?」
「――君があのメンバーの生き残りだからだよ」
青年の顔色がスーッと失くなり、瞳が泳ぎ始めた。
土田は彼の横顔を盗み見ながら、もっと華があったら良かったのにと思った。
青年の見た目がテレビで直接話させても問題ないビジュアルだったからだ。だが、彼が纏うダークな雰囲気が視聴率を上げるとは考え難かった。
しかし、今の反応で、本当は彼が心の内を明かしたがっていると土田は確信を得た。
「君だけだよね? 生き残っているのは……」
「なっ、何が言いたいんだ!」
追い詰めるように同じ台詞を繰り返す土田に、青年は感情を露わにして怒鳴った。車の中で良かった……そう思えるほどの大声だったが、その声は震えていた。
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