プロローグ

6/7
189人が本棚に入れています
本棚に追加
/207ページ
――あいつらも、あの匂いにきっと気付いていた。 なのに足を止めようとしなかった。まるで何かに(いざな)われるように村の中心へと足を進めていった。 だが、それは彼も同じだった。踵を返して飛んで帰りたいと思うのに、足が勝手に彼らの後を追っていったのだ。 悪臭と同時に青年は妙な違和感を持った。人工的な匂いを感じたのだ。 サークルに入り青年はメンバーと共に数十箇所もの廃村を探索した。その経験から『人が住まなくなった場所は自然に返る』という持論を持った。 ――十数年前に廃村になったはずなのに……? まさか、あいつらか? 廃村を調査する彼らには天敵のような存在がいた。廃墟や廃屋を心霊スポットとするマニアたちだ。 一瞬そう思ったが、村が荒らされたという感じはなかった。 何かがおかしい。首を捻っているとザワッと木の葉が音を立てた。無風だったにもかかわらずにだ――と同時に、合掌造りの大きな家から『ギャー』と悲鳴らしきものが聞こえた。 青年の脳内で危険信号が『これ以上進むな』と赤く点滅を始めた。なのに気付けば足が声のする方へと走り出していた。 行くな! 見るんじゃない! 理性が引き止めるのに、その家に到着すると青年は引き寄せられるように窓に近付いた。そして、僅かに開いていたカーテンの隙間から中を覗き見た。 視線の先には広い土間があり、その中央に見慣れた四人が佇んでいた。だが、その顔は揃って呆然としていた。 嘘だろ! 彼らが見つめていた一点を見た瞬間、青年は声なき悲鳴を上げた。 そこに見たのは……囲炉裏の側で肩を寄せ合い固まった三つの亡骸だった。
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!