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――あいつらも、あの匂いにきっと気付いていた。
なのに足を止めようとしなかった。まるで何かに誘われるように村の中心へと足を進めていった。
だが、それは彼も同じだった。踵を返して飛んで帰りたいと思うのに、足が勝手に彼らの後を追っていったのだ。
悪臭と同時に青年は妙な違和感を持った。人工的な匂いを感じたのだ。
サークルに入り青年はメンバーと共に数十箇所もの廃村を探索した。その経験から『人が住まなくなった場所は自然に返る』という持論を持った。
――十数年前に廃村になったはずなのに……? まさか、あいつらか?
廃村を調査する彼らには天敵のような存在がいた。廃墟や廃屋を心霊スポットとするマニアたちだ。
一瞬そう思ったが、村が荒らされたという感じはなかった。
何かがおかしい。首を捻っているとザワッと木の葉が音を立てた。無風だったにもかかわらずにだ――と同時に、合掌造りの大きな家から『ギャー』と悲鳴らしきものが聞こえた。
青年の脳内で危険信号が『これ以上進むな』と赤く点滅を始めた。なのに気付けば足が声のする方へと走り出していた。
行くな! 見るんじゃない!
理性が引き止めるのに、その家に到着すると青年は引き寄せられるように窓に近付いた。そして、僅かに開いていたカーテンの隙間から中を覗き見た。
視線の先には広い土間があり、その中央に見慣れた四人が佇んでいた。だが、その顔は揃って呆然としていた。
嘘だろ! 彼らが見つめていた一点を見た瞬間、青年は声なき悲鳴を上げた。
そこに見たのは……囲炉裏の側で肩を寄せ合い固まった三つの亡骸だった。
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