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 波が打ち寄せる音に聞き疲れ、眠ってしまったようだ。  ゆきは、むきだしの足を擦り合わせ、寒さのあまりに目を覚ました。はっと見ると、体には打掛がかけられている。足がむきだしなのは、自分の寝相の悪さ故らしい。  打掛は金で飾られ美しかった。  (ふゆひめ様の打掛だろうか)  焚き染められた香が優しい。一瞬、この香にくるまれてもう一度まどろもうかと思ったが、障子に誰かが近づく気配があり、身を起こした。  入りますよと声をかけられ、返事をしないうちにすうと開く。冷たい空気が顔に当たった。逆光の影の中で、吊り上がった目を輝かせたつぼねが、そこに正座をしていた。  つぼねはいくつ位の年なのだろう。おばさん、と呼びそうになって何度も口をつぐんでしまう。ゆきは、つぼねが怖かった。  つぼねは、ふゆひめの側近である。  だいたいこの館の住人は、齢が計りにくい。どうにも得体のしれない館であるが、助けてもらった恩は深い。ゆきは、本当ならば、あの岬から身を投げて命を失っていたところだった。     
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