第一話

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「だいたいね、流刑小屋に膳の一つも運べなくて、あんた、十四にもなって、肝煎りの家の娘のくせに、どうするつもりなの。いつだって、怖いだのなんだのって、ろくに家の手伝いもできないで、まったく、出来の悪い妹を持つと、ほんとうに嫌になっちゃうわ」  この言葉に何も言い返せなくなってしまったのは、それが、日頃から巴自身が思っていたことでもあったからであった。肝煎りの家は流刑小屋に配された流人たちの世話をしている。だから多少の交流があるのは常なのに、巴は今までそう言った仕事があっても逃げてばかりいた。怖かったからだ。だが、本当なら、いつまでもそうしていてはいけないはずだった。  巴はおしのの顔を見つめる。美しい姉が完璧なのは、容姿だけではなかった。賢く、歌がうまく、どんな人ともすぐに打ち解け村の中でも顔が広い。村中の人と気軽に言葉を交わしている。人見知りで、ごく血の近い親戚としかろくに話もできず、物覚えが悪く、祭りで歌や踊りを披露する機会があっても手足やのどがふるえてろくな演舞のできない巴にとっては、あまりにまぶしい姉だった。 「大丈夫よ」  と、唐突におしのは言った。険しかった表情がほんの少しゆるんだ。ほんの少しゆるんだだけなのに、その顔も声音もずいぶんと急に、優しそうな印象に変わる。この表情の鮮やかな変化に、思わずこちらの心まで揺さぶられてしまう。村中の男が姉に翻弄されるのも頷ける、と巴は思ってしまう。     
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