第一話

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 おしのから差し出された膳を頑として受け取るまいと、巴は両手を後ろで組んでおしのから距離を保った。きつく唇を結び、巴より少し上背のある、今年十七になった姉の顔を睨みつける。威嚇のつもりで――しかし、勇ましく姉に逆らおうとしていた巴の気概は、あっという間にもろくも崩れ去った。というのも、巴のその言葉を聞いたおしのが、見る見るうちに目をつり上げたからであった。  おしのは、村の誰もがみとめる美しい娘だった。白い肌、切れ長の目、知性と色気の両方が宿る唇、気品のある立ち姿。美しさは、怒りを湛えた時に更に増す。そして同時に、すごみを持つ。巴は強気で姉の申し出を断ってみたものの、その迫力にすでに身がすくむ思いでいた。 「わがままばっかり言うんじゃないわよ。私は今日はあそこに行く気分じゃないの。祭りの料理をちょっと差し入れるだけなんだから、さっさと行ってきなさいよ」 「わ、わがままって、それは、姉さまの方……」  あんまりなおしのの言い分に、巴は思わず反論しようとしたが、不機嫌そうなおしのの視線と口調にすっかり萎縮して、弱々しい声音になってしまった。そんな巴に、追い打ちをかけるようにおしのは更に畳みかける。     
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