第一話

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「お締まり小屋に来るような人ならともかく、平小屋の人たちはそんなに怖くないわよ。さっさと運んで来ちゃいなさい」  その優しげな、励ますかのような姉の言葉に、つられるようにして気が緩んだ巴はつい、一番の気がかりだったことをこぼした。 「だって、だって……最近、京から来た流人がいるって言うじゃない。どうして多賀藩の流刑地であるこの村に、京の人なんかがいるの? よほどの悪いことをしてここまで流されて来たとか――」  そこまで言い掛けたところで、突然、おしのは無言で、手に持っていた膳を勢いよく巴の胸元までつきだした。その勢いに、巴は思わず、何も考えるまもなく反射的にそれを受け取ってしまった。受けとってしまってから、しまった、と思ったが、もはやどうしようもなかった。再び不機嫌になったおしのが、とてつもなく威圧的な口調で、命令した。 「さっさと行きなさいよ!」
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