◇出会い

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 鳥の鳴き声が聞こえる。  もう少しこの微睡に身体をゆだねていたいが、何も遮ることのないガラスの外れた窓から差し込む朝日が眠気を晴らしていく。  「……起きなきゃ」  早く起きて今日の分の食いぶちを探しに行かなければ。  ゆっくりと身体を起こし、まだ半開きの目をこする。  ちらりと外を見ると葉の上には朝露がまだ名残惜しそうに残っている。  そういえば朝露には消えそうな命って意味があったな、希望もなにもない意味を持ってるのに、綺麗に輝いてて――僕は嫌いだ。  昨日の夜は雨が降ったから今朝は天気がとても良く、空気が少し澄んでる気がする――のだが、ねぐらにしているこのくたびれ過ぎているボロボロの神社の空気は、外の空気が少しばかり綺麗になったところで大して変わらない。  今日は最近出来た駅前の洋食屋のごみ箱を漁ろうかな、と考えていると―― 「今日はお客さんが沢山来ますように!」  かなり大きい声が聞こえた。  さっきまで聞こえていた鳥たちの声を吹き飛ばしてしまうほどの声量は、わずかに残っていた眠気の余韻を感じるという朝の唯一の楽しみを奪い去った。 「なんだ?」  僕は驚き、物陰からこっそり外を覗く。  そこにはこの廃れた神社には全然相応しくないきれいな顔立ちの女の人が立っていた。 男の人ではないかと勘違いしてもおかしくはないほどの凛々しい顔つきと高い身長でありながら、しかしそれでいて絹のように滑らかな、一見透き通っているかのように見える純黒の長い髪はこの廃墟にはやはり相応しくない――いや元々は神様を祀っていた社ならば、そう考えればある意味相応しいのかもしれない。  そういう神々しさすら感じられる。  その人はこの神社にお願いをしにきた参拝客のようだ。  その時、不意にその人の視線がこちらに向いた。 「おっと」  僕は思わず少し乗り出していた身を物陰に引き戻す。 「危ない危ない」  こんなくたびれた神社にお参りするなんて、物好きもいるもんだな。それに、あんな何でも持っていそうな人ですら神様なんてものに頼み事をしに来るものなのか。  まぁいいや、僕には関係のないことだ、早くいかないと食べ物が回収されちゃう。 僕は最後にその人を一瞥し、物音をたてないように神社の裏口から駅前に向かうことにした。
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