◇出会い

6/6
前へ
/27ページ
次へ
 こんな感情は早く捨ててしまいたい、忘れてしまいたい。  しかしそんなことは出来ない。  自身の内からあふれ出る感情は捨てようがないし忘れることなどできるはずもない。  そんな逃げようのないものに絡みつかれる僕を救ってくれる人たちはいない――とっくにそんな人たちは自分を置いて行ってしまった。  ジワリと目頭が熱くなる、その時誰かの手が僕の肩をたたく。  驚いて振り返るが視界はぼやけている、その人が男性か女性かもわからないほどに。 「…………」  何かをしゃべっているようだ、だけどどうしてだろうその人の言葉が耳に入らない。  その人の口から放たれる音は聞こえるのに、どうしても言葉が分からない。  いつの間にか僕の手を掴んでいたその人はきっと僕を憐れんで声をかけたのか、立ち止まっている僕が邪魔で怒っているのか、そのどちらかだろう。  そう思うと、さらに自分が哀れな存在なのだと実感してしまいそうになり、怖くなる。  気付くと、僕の涙は流れ落ちてしまっていた。  僕はその人の手を振り払いその場を離れる。  自分はまだそこまで落ちぶれてはいない、そう自分に言い聞かせるためにとったその行動こそが、しかし最も哀れで惨めな行動であったのに。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加