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あれから、質問攻めに逢いつつ学校を終え帰宅し、ご飯を食べて入浴して洗濯してテレビを見て腹を括って。
午後9時。
目の前に見える真っ暗な学校に、私の少ない勇気が悲鳴を上げた。怖いよ、黒沢サァン……
「まずこれ、どこからはいればいいの…?正面玄関から入ったらこれ、アル〇ックとか発動されちゃうやつだよね…?え?それやったら私逮捕されるじゃんね?………く、黒沢ぁ~~~~~!!!!早く来いよぉ~~~~~!!!!」
玄関前で蹲って叫んでみても虚しく自分の声が響くだけで。む、虚しいよ~~~!!!
くすんくすんと座って膝に頬杖を付きながら月を見上げる。
私、一体何してんだろ……
ぼやける視界で綺麗な三日月を見ていたら、不意に後ろから生暖かい風が吹き付けた
「ヒッエエエ?!」
バッ!と振り返れば、まぁ当然ですがそこには玄関の扉。透明なので学校の中が見えるし、月の光に反射して私の泣きべそ顔が写っている。
え、てかちょっと待ってよ。今、真後ろから風が吹いたのに、真後ろって、この、玄関だけだよね…?
サァァー、と血の引く音がした。
ドアに写った目を丸くしている自分を凝視する。うそだろ、このドアから風が吹いたってこと…?!
まさかまさかまさかまさか、と少し後ずさった時、私の後ろに、誰かが立っていた
躊躇した後、勢いよく振り返ったが、誰も居なくて
でも、その代わりと言っちゃあなんだが、
「さっきのはなんだ、っ────?!!!」
後ろから伸びてきた【何か】に私は【何処か】に引き摺り込まれてしまいました。
覚えているのは、ここまで。
暗転。
「……?………ここ、どこ…………ハッ!!!」
ガバリ!と身体を起こせば、どうやら何処かの教室のようで。まぁ机も椅子も何も無いただの空き教室みたいなんですがね。
はて。さっきまで正面玄関にいた筈なのに。これは誰の仕業やら。
「ああああああもう!だから嫌なんだよ夜の学校とかさぁ!!!」
頭をぐわしゃ!と掻き乱しながら昔を思い出す。
あれは小学生の頃のことだろうか。6年生になると、学校に一日泊まる行事があるのだ。皆でご飯を作って皆で遊んで皆で寝る。
その行事の一環で、【学校内肝試し】とやらがあった。オバケ役は皆のお父さんやお母さんだったのだが。
その肝試しで私は嫌というほど学校のオバケ(本物)達に大いに驚かされ泣かされ走らされからかわれたのである。
もちろん、そんなこと先生に話しても大人に話しても信じてもらえず、挙句の果てに同級生達からは「怖がりすぎでしょ(笑)」とバカにされた。誠に遺憾である。
それ以来、夜の学校、あるいは肝試しと呼ばれるものが大嫌いになったわけですが。
「もうこれその二つに当てはまるよね?!夜の学校で脱出ゲームですかね?!」
叫んでても始まらないので、とりあえず廊下に出てみることにした。もういいよ!早く黒沢に会いたいよ!
「ここ……3年の教室の隣だったのか…」
3年生の教室は、2階にあって、少しだけ隔離された場所に存在している。
とりあえず歩いてみることにする。
廊下に設置されてるスイッチを押しても電気は点かないし、もうなんだか、怖いを通り越して悟りを開き始めている。モウ、コワクナイ、ハハハ!
そんなことを考えながら曲がり角にある少し小さい階段を通り過ぎる。ここはあまり使わない階段で、近道したい時や理科室に行きたい時に使うくらい。
だからだろうか、そこで、待ち伏せしていたかのように、
「オハヨウ、ココロ。アソボウ?」
「あ、ア、」
「ワタシノ、ココロ。コッチ、オイデ」
「~~~ッああああああああア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!!」
\(・ω・\)SAN値!(/・ω・)/ピンチ! です。
▽▼▽
一方その頃。
直はとっても不機嫌な様子で理事長室に入って行った
「おい、和田来てるか?」
「え?直と一緒に来るんじゃなかったの?」
「9時に来いとは伝えた。だから玄関で待ってたんだけどな。」
「もう9時15分よ?あんた迎えに行く位の紳士精神見せなさいよバカね」
「うっせぇよ」
「心ちゃん、やっぱり来たくなかったのかな…」
理事長室にはほのかに明かりが灯っていて、黒沢家の3人が揃っていた。
3人とも昼間とは違い、とてもラフな格好だ。
「お家に電話してみる?」
「いや、無理矢理は好きじゃないからなぁ…うーん、どうしようかなぁ」
「ったくめんどくせーな女は。仕方ねぇから今日の所は俺が処理して、明日和田の奴に問い詰める」
「女の子に問い詰めるなんて、ひどーい」
「うるせぇ約束すっぽかす様な奴なんて信用出来るかよ」
イライラしながら言い放つ直にリリィも流司も苦笑いである。何だかんだでコイツは黒沢家の事が大事なんだよなぁ、と。
血の繋がった親戚の年下くんは、どう転んでも可愛いのである。
着々と用意し出す直にリリィもため息をついて呪符の用意をする。
流司も諦めたように結界の準備をしようとした
その時だった
『 ~~~ッああああああああア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!! 』
「「「?!」」」
「今の声何?!」
「今の、心ちゃんの声?!」
「ッチ、何かあったんだ!行くぞ!!」
遠くもなく近くもなく、そんな距離から聞こえた、怯えと涙を孕む叫び声。
それは間違いなく、今日ここに来いと約束した女の子のもので。
理事長室を飛び出した直に続いて流司もリリィも飛びたした。
▽
あれから何分経ったのだろうか。
廊下には3人の荒い息遣いだけが響いていた。
「ッ、ハァ、なんで、何処にも、居ねぇんだよあのバカ!!」
1階を周り2階へ、そこから手分けして3階を周り、そこから各々様々な場所を調べ、2階へと戻ってきた。
不思議なことに、この間、心の声も足音も息遣いも、何も感じられなかったのである
息切れをして、へたり込むリリィと水道で水を飲む直。
そんな直の前にある【鏡】を見て、なにやら考え込む流司。
「もしかしたら、【鏡の向こう】に心ちゃんは居るのかもしれない」
「は…?鏡の向こうって、なに、ソレ」
「…合わせ鏡みたいなもんか、」
「まぁ簡単に言うとそうだね。鏡とはよく境界線として働いていてね。向こうとコチラを繋ぐ境界線。」
「じゃあ、今心ちゃんは、ムコウの世界に、いるかもしれないの…?」
「多分ね」
3人で、水道の上にある四角い鏡を見つめる。
この向こうには、違う空間が、ある。
「何処かに絶対出入口があるはずだ。」
「その前に、和田と会ってその状況を説明しねぇとダメだろ」
「さっきの悲鳴だ。混乱してるに違いない」と直が言えば流司もリリィも頭を抱えた。
彼女と会うには、まず彼女が鏡のある場所へと来てもらわなければならない。しかも、こちらと同じ場所の鏡に、だ。
「…心ちゃん、」
「──ちょっと待って。何か聞こえない?」
しー、と口元に人差し指をやる流司に習い、直もリリィも耳を澄ませてみる。
───タン、タン、タン、
「階段を、降りる音…!」
自分達の背後には階段がある。そして、階段を降りれば鏡が目に入る。
これだ!!と3人は鏡に詰め寄った
▽▼▽
「ぅう~~ッ!!も、やだ、帰りたい…」
べそべそと泣きながら私は学校内を歩いていた。
何故か私に執着する謎のオバケを撒いて、今は休憩を終えて3階から2階へと降りていた。
何故か、黒沢の姿は何処にもない。理事長室にも行ってみたが、誰かが居た痕跡は何も無かった。
そう、【何も無かった】のである。
玄関からも出られず、窓からも出られず。
正に、万事休す。
「ぅぅう~~ッ!」
タン、タン、と降りる音だけが響く。
そろそろ2階か、と視線を上げれば目に入るのは、水道と鏡。
目を丸くした。
『和田!』
『心ちゃん!』
『良かった会えた!』
「え?!………ええええ?!!!」
バタバタと駆け寄り、鏡に映るのは私ではなく、黒沢と理事長とリリィ先生で。
涙もぶっ飛びますわ!!居ないと思ったら何してんの?!
「え?!なんで?!どうやって鏡の中に?!」
『落ち着け!鏡の中に入ってんのは、お前の方だ』
「え、」
『こら直!余計不安にさせること言わないの!』
『心ちゃん身体は何ともない?大丈夫?怪我してない?』
「もう色々アウトです」
そして理事長が教えてくれたのは【鏡はコッチとアッチを繋ぐ境界線】であるということ。
おっふ。眩暈がした
『心ちゃん、何か鏡に吸い込まれたりしなかった?』
『今に至るまでの経緯、教えてくれないかな?』
「えーっと…9時ちょっと前に着いて、黒沢来ないなーって正面玄関前で座って待ってたら風が吹いて、人の気配がして、振り返、あ」
『心当たりあんのか』
「私、振り返った直後、なんか、どっかに引き摺り込まれてしまいまして、まさか」
『…』
『…』
『…』
「まさかでしたね」
『『『呑気に笑ってる場合か!!』』』
「これでも一応死ぬ程怖い思いしてます!!!」
鏡の向こうの3人がなにやら会議を始めたのを見てから私は頭を抱えた。ああもう、どうしてこうなっちゃうかなぁ………
そして、それは唐突にやってくる。
───ペタ、ペタ、ペタン、
ぞわりと肌を包む気持ち悪い程に生暖かい風。耳に届く人の歩く音。そして、何より、【恐怖】
『…和田?』
「ヤバイ、」
『心ちゃん?どうし、あっ…?!』
鏡の向こうの3人が私の後ろを見て目を丸くする。
あぁ、振り返りたくないけど、仕方ないのかぁ。
私は意を決して、ゆっくり振り返った
「ミ、ツケタ、ココロ、コッチ、オイデ、」
「は、ははは…」
ニタリと笑って、階段の踊り場から私に手を伸ばす【この世のものでは無いモノ】
本能が鳴り響いた。【逃げろ】と
『和田!!』
「っ話はまた何処かで!!!今は、アッ、ヤバ、逃げ、」
『わだ、』
───ガッシャァアン!!
伸びてきた黒い手を避ければ、今まで話していた鏡を粉々にされる。嫉妬深いのかただ気に食わないのか。どちらにせよ、ヤバイ。逃げなきゃ次は私がああなる。ヤバイ。
バクバクと痛い心臓、止まることを忘れた涙、もつれそうになる足を動かして、走る。走る。
唐突に、黒沢が恋しくなった。
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