視えることが日常です

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視えることが日常です

わたくし、和田心は、全力で後悔していた。 「─────…であるから新入生の皆さん──────……」 壇上で挨拶する来賓だか校長だか町長だかわからん人の話なんて聞いていられる場合じゃない。 「(嘘でしょ…あれ…)」 とにかく目の前の光景に全力で逃げたくなった。 だがしかし私が今奇声を発し逃げ出せば、完全なる不審者だし精神異常者だと思われてしまう。 だって、 「(アレ、皆に見えてないんだから……)」 私たちが座っている所は、新入生のためステージに一番近い。 しかし、ステージと私たちの間にはわずかにスペースがある。勿論、来賓だか生徒代表だかがしきたりに従い歩かなければならないからだ。 そこに、だ。 幼稚園?保育園?まぁどちらでも構わないが、そんな小さい子がいっぱい集まっている。そんな光景を彷彿とさせるかのように 小さいけど、人ならざるもの…つまり妖怪、妖って呼ばれる類のモノがわいわいキャッキャと集まっていた。何?なんで? 周りが座礼をしたのに気付いて慌てて私も座礼する。ほんと妖と関わるとろくなことが無い…隣の子に変な目で見られた。やめてよ、気にしないで ちなみに妖怪達はというと、「よくわかんなかったけどすごーい」なんて拍手。 ああもう…どうして皆は見えないのだろう…… 私は、昔から色んなモノを見てきた。いや、必然的に見えてしまっていた。 生まれも育ちもわからない私を拾ってくれた祖母はよき理解者だった。 最初は見えることが怖かったし、何よりこの感情を共感出来る人が居ないのが辛かった。 友達にも何も言えなかった。 何故自分だけが見えるのかと、祖母に泣きながら八つ当たりしたこともあった。 だけど、小学校の高学年にもなればもはや慣れ。 知らんぷりすれば自ずと怖さも軽減されることを知り、嘘を貫き通せば友達だって出来る。 私は嘘をつくことを、選んだ。 * そして現在、高校1年になったばかり。 私は祖母の知り合いである老夫婦に引き取られた。とても良くしてもらっていて、老夫婦もまるで孫娘のように可愛がってくれている。幸せ、だ。 そんなことを思い返しながら私は入学式の驚愕の出来事にフラフラしながら教室へと脚を進めていた。 周りは皆「校長の話長かったねー」なんて話題で友達作りをしていた。 校長の話の長さより目の前の光景に驚愕だよ…なんて苦笑いしながら教室へ入る 幸か不幸か、黒板で座席を確認すると出席番号の関係で窓側の一番後ろ。やった。ラッキー! カバンを横にかけて、席につく。よし、ここの席ならよく見渡せる。 人を観察するのが意外と好きな私は早速頬杖をつきながら人間観察。 なんて思ったら目の前に黒髪のストレートロングな髪をなびかせ、いかにもお嬢様!って感じの子が座った。 心なしか、いい匂いが漂う。やだ、超いい匂い! 「ねぇ!」 思わず。私は声を掛けていた。珍しいぞ、私から声を掛けるのは! 黒髪の子はびっくりして私を二度見。なんだよ、そんなに珍しいか。いや珍しいけども。じゃなくて。 「………私?」 「他にいたらびっくりだよ…」 あいにく、窓側の一番後ろなんて人はそうそうたまらない。故に、私とこの子以外は今は周りにだれも居ないのである 「じゃなくて……私、和田心って言うんだー!!ねっ、良かったら仲良くしようよってかして下さい!」 ちょっと突然だったかな?と思ったが仕方あるまい。可愛いんだわ、この子。 仲良くしたいとか思っちゃうじゃん。 「心って言うの?可愛い名前」 「ホント?うれしー」 黒髪の子はふわりと笑った。おおう、笑顔も可愛いですね…なんて思ったら黒髪の子はきちんとこっちに向き直した 「私は、吉崎風璃って言うの。変わった名前でしょ?」 「ふうり…かぁ。確かに変わった名前だね。でも、可愛い。ぴったりの名前だね」 よろしくね、と笑って手を差し出せばにこやかに笑って手を取ってくれた。 これは、仲良くなれそうな予感。 入学式は散々だったが、なんとか友達が出来たよ、おばあちゃん。 そして、着席を促すチャイムが鳴った。
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