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――否、正確には『人』ではない。
――てけてけてけてけ。
何故なら『アレ』は生きていない、おおよそ生物では有り得ない存在である。
走りながら後ろを見ている為に正確な全体像を確認できないが、一度間近で見たから分かる。
脳裏に焼き付いて離れないそのおぞましき姿、ここ数日夢でさえ見た『アレ』は――
そんなふうに後ろを見ながら物思いにふけっていたのが悪かったのだろう。
「へぶっ!?」
おおよそ女子高生らしくない声を出して誰かにぶつかった。勢いが付いていた為、前につんのめって肩から転倒する。
(――こんな時に! 急いで逃げないと!!)
すぐさま起き上がって逃げようとする少女、しかし――
「――待たんかい」
「あぐぅ!?」
後ろ髪を引っ張られ、視界が上向きになり首からグキリという音が聞こえたような気がする。
少女は何が起きたか分からずに混乱して振り向くと、おそらく先ほどぶつかった相手だろう、男性が不機嫌そうな表情で少女のポニーテールを握りしめていた。
「人にぶつかっておきながら謝りもしないのか、最近の女子高生は」
黒いシャツに半袖の上着、乱雑に切り揃えられた黒髪、そしてその黒髪の中に一房といえる量の髪が白く染まっていた。
平時であればその異常性に気が付いただろう。しかし、少女にその余裕は無い。
「――っ!」
今度は完全に、『アレ』の姿が目に入る。
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