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――てけてけてけてけ。
超高速で少女に向かって下半身の無い女が匍匐前進で迫ってきた。
その距離はもはや血走った狂気の表情が分かるほどであり、少女にとっては絶望的な状況でしかない。
例え目の前の男性を壁にしても、今逃げてきた雑踏の通行人と同じ様に透過してくるだろう。
しかし、そんな事つゆ知らず、目の前にいる男は少女を睨む。
「おい、聞いているのか?」
(ああ、これはもう駄目だ)
少女は既に諦めていた。もはや自分は助からないと。
なので、
――パンッ、という音と共に女が消えた事に、一瞬何が起きたか理解出来なかった。
「――は?」
「ん?」
間抜けな声を出した少女は、目の前の男性が不思議そうに自らの足元を確認する姿を凝視するしかできなかった。
周囲の通行人にもその音に気が付いたらしく、辺りを軽く見回してから目に見える異常が無い事を確認すると、日常に戻っていった。
確かに異常は無い。
否、正確には無くなったのだと少女は知っている。
しかしその原因が分からないゆえに困惑して次の行動が取れずにいた。
「……うぇ」
唯一、目の前にいる男性だけ何が起きたかをある程度理解しているようで、気持ち悪そうに足を手で振り払う。
それは先程の女がぶつかった場所と一致していた。
少女は考える、この男性に上半身女がぶつかったからあの半身女は姿を消したのだろうか?と。
しかし、人にぶつかった程度でアレが消えた事など無い。
事実ここ数日、あの半身女は一部例外を除いてだが人間を透過していた。
物理的な壁等ではやり過ごせたが、人にぶつかって止まる事も、ましてや消える事も無かった。それなのに何故突然消えたのか……
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