32人が本棚に入れています
本棚に追加
白髪弧牛は他人に興味が無い。
その決断は常に冷血で、自分本位のものばかり。
――しかし、それでも、彼は冷酷ではなかった。
てけてけの時も、今回も、彼は稲穂に最低限の気を使っていた。
「だから、関わるな。俺達みたいなのとつるめば、オカルトに関係無くお前が傷付くだけだ」
「…………」
「これから会う奴等は俺を信用していない、だから証人としてお前から説明してもらう必要があった。けどそれが終わったらもう――」「白髪さん」
稲穂は一つの決意を持って白髪に話しかける。
「――依頼します。今回の『呪いのビデオの真相究明』。それと――」
携帯を取り出した稲穂は、とある画像を表示させて、白髪に示す。
「――『オカルト部部長の探索と目的の調査』。そして『その調査への同行』の三つを」
――そこに映っていたのはオカルト部三人の集合写真。
死んだ桜芳樹がカメラを持ち、部長と二人の間に『新入部員』と書かれたスケッチブックを掲げた稲穂の写真だった。
「――馬鹿だな、お前」
それを見た白髪は頭を掻きむしりながらなんとも言えない表情をしている。
「依頼なら、受けてくれるんですよね? もっとも、受けないのならば自分で動きますが」
「……自分を人質にするとか、どこで覚えた、そんな悪い事」
「貴方からです」
「……あー」と唸りながら、白髪は天を仰ぐ。
「――仕方ねえ、放っておくのも寝覚めが悪いしな」
そう言って、白髪は折れた。
特に深く理由を聞こうともしなかった。そんなことしなくても稲穂が引き下がらない事はわかったからだ。
例えどれだけ自分が傷付こうとも、見て見ぬ振りは出来ないと。人が傷付く事を、何も知らず、目を閉じて、聞かなかったことになどできないと、稲穂はそういう人間なのだと、そういう人間がいるのだと。
理解は全くできなくとも知識として白髪弧牛は知っている。
「その依頼、確かに引き受けた」
こうして稲穂美神はーーまたもや血迷って道を踏み外すのだった。
最初のコメントを投稿しよう!