忘れ物

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忘れ物

放課後、友達の住むマンションに行くことになった。 そいつが住んでいるのは9階。2階建の古い一軒家にかれこれ16年間住んでいる俺からしたら、3階でも高尚な感じがするのに、高さがその3倍だとさ。 エントランスから、エレベーターで上へ登る。そもそもエレベーターに乗る機会があまりないから、それだけで特別な気分になった。 9階の部屋で一緒に数学の参考書を解き、既習の範囲が終わるとテレビゲーム。スマホゲームでは味わえない、大画面ならではの臨場感。最高だった。 「また来てね」 「おう、ありがとう。お邪魔しましたー」 部屋を出て、エレベーターに乗り込んだ。先客は太った中年男性。このマンションは12階まであるから、もっと上の階から乗ってきたのだろう。 3階を通過したところで、俺は筆箱を忘れたことに気が付いた。もうすぐ1階だったので、エレベーターは止まらない。とりあえず下まで降りてから戻ることにした。 オッサンが降りる。そのときだった。 プゥ~ しっかり屁をこいて行きやがった。しかも、めちゃくちゃ臭い! そこに、新婚と思われる夫婦が乗り込んできて、すぐにドアが閉まった。 エレベーター内は、まだ臭い。 「フンッ」 旦那が鼻を鳴らして、俺を睨んだ。 にやつく嫁。彼女の目は俺を見ていた。 若夫婦は4階で降りていった。ドアが完全に閉まるその時まで、彼らはしっかり俺を見ていた。 俺じゃないのに。
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