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ご注文の品は
部活が30分も長引いた金曜日。
解散後、着替えに行こうとすると、ナミちゃん(双木)が寄りかかってきた。俺はそれを引きずりながら歩く。
「……なんだよ」
「うえちゃん、何か食って帰ろうよ。腹減りすぎて死にそう」
明日は他校で練習試合。休憩時間も作戦会議で潰したため、補食を摂れなかった。
「いいね。俺ハンバーグ食いたい」
「えー、牛丼がいいー」
「食べ放題でいいじゃん」
名指しで誘われた俺が何も言わないうちに、同級生3人が割り込んできた。
「俺は何でもいいけど。うえちゃんは?」
乱入組の山本に意見を求められる。って、こいつらも来るのかよ。
「うーん、俺も何でもいいけどさ……ファミレスは? 好きなもの食えるじゃん」
「おお!」
「うえちゃん、天才!」
そうと決まると、皆が着替えのペースを上げた。
学校から徒歩8分のレストランに入った。
「いらっしゃいませー。何名様でしょうか?」
俺が手の平を見せると、すぐに禁煙席に案内してもらえた。
「俺ハンバーグ」
「何にしようかなー」
「早く決めろよ」
10分程悩んで、俺と山本がチキングリル、小林と村上はハンバーグ、ナミちゃんはステーキを注文した。
しばらく駄弁っていると、ハンバーグが運ばれてきた。次に来たのはステーキ。
ナミちゃんが空腹で倒れそうだったので、3人には先に食べ始めてもらった。
それから2分後、ウェイターは、チキングリルを1つ持ってきて、山本の前に置いた。そこそこ大きくて、2つ同時に持つのは難しそうだし、すぐに俺の分も運ばれてくるのだろう。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
……ん?
「あの、チキングリルが1つ届いてないです」
俺が言うと、ウェイターは伝票を見た。
「チキングリルがおひとつ、ハンバーグがおふたつ、ステーキがおひとつ……で承ったのですが」
「いや、チキングリルは2つ頼みました」
「申し訳御座いません。すぐにお持ちいたします」
すぐに頭を下げて、厨房に引っ込む。
目の前で、小林と村上が声を出さずに笑っていた。
何故か俺だけ、注文が通ってなかった。
俺のチキングリルが届いたのは、それから15分後のことだった。
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