夜の電線

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お盆休みが明けたのと同時に、職場の一年上の先輩である目黒(めぐろ)さんは、よく空を見上げるようになった。 最初は、雲を眺めてるのかなとか、悩みごとでもできたのかなと特に意識もせず見ていたのだが、一ヶ月近くが過ぎても職場の窓から空を見ていたり、外を歩いていても時折思いだしたように視線を空に向けていたので、俺はいよいよ気になってしまいどうしてしょっちゅう空を見るのかと訊ねてみた。 すると目黒さんは少し恥ずかしそうに笑いながら、「そんな大した理由じゃないんだけど」と、空を見上げるようになった経緯を語ってくれた。 跡継ぎのため実家暮らしをしている目黒さんの元に、お盆休みを利用して妹夫婦が帰省してきた。 妹夫婦には中学生の息子と娘がおり、小さい頃からよく面倒をみていたせいか、二人は目黒さんによく懐いているのだという。 妹夫婦が帰省してきた最初の晩、庭で買っておいた花火をしながら甥たちと遊んでいると、突然姪が「そう言えばさ、おじさん夜暗くなってから電線を見上げたことある?」と、そんな妙なことを訊ねてきた。
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