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送られてきたもの
『啓二。俺』
「ああ」
電話口の聞き慣れた声は高校時代からの友人のもの。こいつがバンド組んでギターやってた頃に曲を作ってあげていた。ヘタクソだったから売れなかった。
ああ?『曲が悪かったんじゃないか』だって? 違うな。
こいつは今、売れっ子の俺の曲を売るため、事務所の社長をして儲かってんだから。
『バレンタインのチョコレート。大量に届いてるから、取りに来い』
「パリから? わざわざ?」
呆れて物が言えない。
そうです。俺はフランスのパリに住んでいます。本格的に作曲の勉強もしたんだよ。どうだ、そろそろ信じてきたか。
『まあ、それは冗談として。最近曲できてねえじゃん。どうした』
スランプか? と言い当ててくるのが腹がたつ。
「こちとら二足の草鞋を履いてんだよ。有名なピアニストが半年に一度は新しい曲をねだってくるんだ」
俺ーー西野啓二は、作曲家としてヨーロッパを中心に少しずつ評価と知名度を上げてきている。
それもそのピア二ストが、コンサートで積極的に俺の曲を弾くからだ。
『それだって、今はうちの事務所通してるじゃん。別にクラシック一本でもいいんだけど。編曲の依頼も山積みになってるぞ』
ぐうの音もでない。
確かに、この半年は五線譜に音符を書いては消し、を繰り返していた。何も浮かばないし、書いても気に入らない。
『なあ、ちょっと気晴らしに帰ってくれば。飲みに行こうぜ』
こちらを気遣っているのか。明るい口調で社長は言った。
「……そうだな」
小さな溜め息をひとつ落とし、俺は同意した。
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