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突撃お宅訪問
何を血迷ったのか、俺はその日のうちにS県にやってきた。
寒い。
南の方にあるから暖かいと思っていたのに。
隣の県の空港からバスで2時間。それからタクシーでやってきた。住所と地図で、差出人がここに住んでいることを確認する。
ボロアパートだった。
築50年くらい経つんじゃないか。アリの巣の方が暖かそうだ。
裕福な勘違いナルシストが送ってきた楽譜だろうと思っていた。それで一発怒ってやろうと。この住まいを見るだけで自分の傲った気持ちはシュンと萎えた。
夕暮れ時でますます冷えてくる。インターホンは壊れており、ノックをするが誰も出てこない。やばい、このままだと凍死する。
「今日のところは諦めてどこかホテル探すか……て、何やってんだ俺」
自分にツッコんでいるちょうどそこへ、向こうから砂利を踏む足音が。それは俺を確認するとピタリと止まった。
見ると、着膨れてはいるが小枝のように細く、背の低いセミロングの女だった。多分、年は同じくらい。
「あ、お金は来週じゃなかったでしょうか……」
怯えて震える声。何のことか分からないが、彼女は遠目に見ても真っ青になっていた。近づいて逃げられると面倒なので、俺は帽子を取ってその場で挨拶した。
「西野啓二と申します」
彼女は持っていた買い物袋をどさりと落とした。
パシャッ。
中の卵が割れてしまった音が響いた。
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