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事の真相と彼女の苦悩
ガソリンスタンドの隣にJAがあったので、卵とインスタントのコーンスープを買って、俺は恐るべき速さで彼女の家に戻った。扉を引くと鍵がかかっているので、猛烈にノックする。
「いちいち鍵をかけるな!」
「すみませんっ、つい癖で」
「湯は沸いてるか!?」
「は、はひぃいいい」
怒っている自分が滑稽だが、とにかく温まりたい。すぐにストーブの灯油を入れ、点火。
「あの、おいくらですか」
「いい! そんなものは!」
もう限界。切れてる。自分でも分かった。
彼女にスープカップと湯をもらい、ようやく温かいものを体内に入れることができた。
「あんたも飲め。カップ持ってこいよ」
「でも」
「いいから。あ、これ卵。さっき割れたから」
「すっ、すみません! あ、これ高いやつ!」
少し落ち着いて、語調も柔らかくなったはずなのに、彼女はまだビクビクしていた。
俺はカバンから紙を出し、差出人を見た。
「江口花」
「は、はいっ!」
やってきた彼女は驚いて返事をする。出席取ってんじゃないんだ。
「これは、あんたが書いた楽譜なのか」
折り畳まれた三枚の五線譜。楽譜を折るとか、何考えてんだ。機密文書なのか?
江口花は驚いてこっちに飛び込んで来て、俺の手から楽譜を奪った。
「これっ、ここここれっ……!」
頬が真っ赤に染まっていく。取り敢えず俺は彼女の手から味噌汁椀を取り上げ、スープの粉末と湯を注いだ。
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