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鼻歌を口ずさみながら、小指に軟膏を塗ってやる。沁みないようにそっと。
「その歌……」
「これ? 『傷がナオール』って歌。今作った」
「……ふふっ」
初めて笑った。なんだ、笑えるんだ。俺も思わず小さく噴き出してしまった。
「合わなかったらいけないから、小指だけにしとくな。もし良かったらまた送ってやるから連絡しろ」
俺は勝手に彼女のスマホを取り、自分の連絡先を入力する。
「登録しといた。この軟膏も取り敢えず花にやるよ」
「……!」
花はパッと顔を上げ、目が合うとすぐに逸らした。「ハ」の字眉毛に、真っ赤になってまた泣きそうな顔。なんでそんな顔するんだ。訳が分からない。
「栄養取れないほど生活厳しいなら、親元に帰ればいいんじゃないの」
溜め息をついて壁に背を預ける。すると彼女は今度はキッと俺を睨み、垂れ目に涙を浮かべた。なんだ、俺とやろうってのか。売られた喧嘩は買うぞ。
「帰れない……借金があるから」
「いくら」
「……ごひゃくまん」
ええ。結構でかい金額だな。そう思ったのが伝わったのか、遂に花の目から涙が溢れた。
「彼の、連帯保証人に、なって……」
ああ。そういうこと。悪い男に捕まっちゃった訳か。最初に会った時の言葉を思い出した。
「毎月五万ずつ返してる」
「利子は?」
「30パーセント」
「焼け石に水だな」
「……っ」
顔を両手で覆う花を見ると、胸糞悪くなった。その男はどうしてるんだ。コイツをこんなに惨めにして。髪の毛もバシバシじゃないか。おおよそ金がないから自分で切ってるんだろ。
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