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1ヶ月前に貰った包みは、開ける事なく、部屋の隅に転がしてあった。
「これ。」
天野紗雪。1つ上の先輩で、部活何してるとか、委員会何してるとか、俺は結局何も知らなかった。多分何もしてないんだろうなぁとは思っていた。
「傘、無いの?良かったら、入る?」
先輩と初めて喋ったのは6月の雨の日だった。図書委員の俺は放課後まで図書室のカウンターにいたため、友達は皆帰ってしまっていた。傘立てにある誰のものとわからない傘を勝手に借用しようか、という悪い考えに頭がゴーサインを出しそうだったので、初対面の先輩の傘に入れてもらうという選択肢を喜んで受け入れてしまった。
「ありがとうございます。」
先輩は俺より少し背が高い。整った横顔をしてるな、と思った。少し話して、先輩が1つ上であること、一人暮らしをしていること、最近登校中によく見る猫が可愛いこと。どうでもいいような事を喋る。
「急に知らない女に、傘入らないって言われて、ビビらなかった?」
意外とヘタレなところがあるらしく、気にしてもどうしようもない事を気にしている。
「うちの学校にも怪談あるの知ってます?」
先輩は首を振る。あまり聞きたくない、という空気を醸し出す先輩を無視して話を続ける。
「そのうちの1つに、雨の日の話があるんすよ。」
察した先輩は口を尖らせる。
「親切心を怪談とまで言われるとむかつく。」
でしょ、と言って笑う。
「そういえば、先輩はどうしてこんな時間まで学校にいたんですか?」
先輩は困った顔をする。聞かれたくない事だったらしい。
「中間の追試をいまだにクリアしていないとかそういう。」
「そんな感じ。君は?どうしてあんな時間まで残ってたの?」
コミュニケーション下手くそだなぁ、この人。初めて話した印象は、その一言に尽きた。
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