先輩

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そんな先輩だが、あの雨の日以来、ちょくちょく図書室に来るようになった。 「なんか面白い本ある?」 この質問にも慣れてきた。 「そうですね、この前教えた本はどうでした?」 梶井基次郎の、檸檬。教科書に載っているかの有名な話の他にいくつか短編の載った短編集。なんとなく、この人は梶井と合うような気がしたから薦めた。 「面白かった。でも私には難しくて、1つの話を、三回も四回も読み返したけど、まだよくわかってない感じ。」 自分でも持ってたくなって、古本屋で買っちゃった、と文庫本をもう一冊出す。初めて買った本だと言う。気に入ってくれたようで何よりだ。そんなことが2週間に一度ほどあって、いつ話しても会話が下手くそではあるが、なんて事のない一言から先輩らしさが垣間見えるとき、楽しいな、と思った。 「登校中にさ、可愛い猫がいる話したじゃない。あの子とついにお近づきになって、触ってみたのよ。そしたら家帰ってからさ、なんか肌が痒くて痒くて仕方ないの。」 猫アレルギーだったらしく、しゅんと肩を落とす先輩。 「君は、クリスマスは暇なのかな?」 冬休み前、ニヤニヤしながら聞いてきた先輩。暇ですよ、と答えると、私は用事あるけどね、と何故か勝ち誇ったように言っていた。 「ね、今暇?」 そのくせに、クリスマスの夕方、先輩からメッセージが届いた。猫の写真か何かをきっかけに交換した連絡先。暇ですよ、と返すと高校の近くの公園まで出てこれない?と返ってきた。 「予定あるんじゃなかったんですか。」 散々煽られたので、いじってやろうという気持ちでいっぱいの俺である。 「ドタキャンされた。」 凹んでいそうだな、泣いてるんじゃなかろうか。そんなことを思いつつ公園に着くと、先輩はもぐもぐとフライドチキンを食べていた。 「ちゃんと予約してたのに、ドタキャンされちゃって余っちゃった。まだほのかに暖かいよ。」 ほとんど冷めているってことじゃないか。ものは言いようである。しかし、流石、フライドチキンは冷めても美味い。 「ほんとだ、ほのかに暖かいっすね。でもここ寒くないっすか。」 確かに、と先輩は言って、ふらりと歩き出す。 「どこ行くんすか。」 俺も慌てて立ち上がり、フライドチキンの包みを持って追いかける。
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