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すべての連絡手段を封じ、気づかれぬまま殺す。ただ一人、足を切り裂き、悲鳴を上げられぬように喉を引き裂いた黒づくめの女秘書はその倒れた体の上に足を置き、サイレンサーのついた銃を頭部に向けた。
「まったく、組織では取引現場を見られたら撃ち殺せと指示されているだろうに」
そう言いながら、彼は困ったような笑顔でまだ、意識のある男の顔をまじまじと見つめる。もっともそれができたかはわからない。それほどに自分の女性秘書は優秀だ。
あぁ、かわいそうにと心の底から思いながら……。
死ぬ行く彼に対して冥途の土産を持たせてやる。
「私はね、自分の部下が死んでいくことが悲しいよ」
その言葉の意図に気づいた様子はない。ただ死が恐ろしいのだろう。痛みがひどいのだろうか。
社長は男に背を向け少し距離をとる。十分な距離をとると、背後でぽしゅっと間の抜けた音がして、振り向けば男たちは全員死んでいた。
「ボスは優しさが過ぎますよ」
「さてさて」
それでも男は悲しい感情を顔に出してしまった。
男に言ったことは嘘ではない。
自分の部下の死は悲しい。
彼がこの世界を動かしている。
大企業の社長である彼を皆がそう表現している。
だが、それが比喩ではない。
彼はこの世界を本当に支配している。
誰が社長として日々忙しく働いている彼こそが悪の組織のボスだということを考えるだろうか。
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