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とある深夜の、とある波止場でその取引は行われた。
世界的に取引が制限されているとある希少な宝石。小さくても大金持ちがこぞって手に入れたがるそれを黒服の男は単眼鏡を使ってつぶさに確かめる。
確かにコップ一杯ほどの量でも大金が動くのに申し分ない本物であった。
「いいだろう」
男は宝石の鑑定を終えて、部下にアタッシュケースを持ってくるように命じる。
「これだけのものをかき集めるにはなかなか骨が折れただろう」
それがわかっていたから、指定された金額に少し色を付けた。
この取引相手なら申し分ない。確かにこちらの儲けは減ってしまうが、それでも今顔をつないでいい印象を与えておけば、長い取引ができる。
新しい取引相手は最初の一回目が肝心だ。
それがわかっている者同士ならより同じ価値観を持って、今後も長く付き合っていけるだろう。
商品に対して金が支払われる。
まさにその時だった。
「おやおや、こんな薄暗がりで何をしているんだい?」
第3者の声に男たちは顔を上げる。その声がどんなに柔らかいものでも、この場にいてはならないからだ。
「あの人は……」
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