新しい取引相手

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 10人にも満たない取引の現場にいた人間からとある企業名が出てきた。  そして皆が突然現れた男がその企業の社長であるということに気づき、混乱した。  なぜここにいるのか?  現場を見られたからには殺す。組織の中にそう言う取り決めがあったが、さすがにネームバリューが大きすぎて、誰一人動けなかった。  そんな彼らに、社長は一人悠々とした足取りで近づく。  そこが秘密の取引現場であっても、彼の醸し出す雰囲気は変わらない。  世界を動かす大企業の社長だというのに、どこかやぼったいサラリーマンのイメージしか与えないのはある意味で才能なのかもしれない。 「おや、みんな私の顔を見て随分と驚いているみたいだねぇ。あぁ……初めて会う人はみんなそうさ。会社の広報としては社長は光り輝く存在としてあってほしいみたいでね。やめてほしいと言ってもすぐに写真を加工してしまうんだよ」  でも、と社長は一息つく。 「間違いなく私は最も世界に影響を与えるとある大企業の社長だよ」  そんなことを柔らかな声で小学生に教えるように告げる。  ぽかんと口を開いたものも多かったが、何人かは実際の自分を知っているようで、「本物だ、間違いない」とうわごとをつぶやいている。  そんな様子に思わず社長は目を細めてしまう。     
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