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「しかし、まぁ、困ったことになったねぇ」
その一言に今どんな状況にあるか男たちは思い出したらしい。
悪の組織の一員として見られてはならない取引現場を表の人間に知られた。そのことに数人が銃を構える。
しかし、一人がそれを制して、一歩だけ前に出る。
「おい、それよりもこんなところにのこのこやってくる大企業の社長を誘拐すれば……」
そんな思い付きを口にすると、男たちの目の色が変わった。
「あいつは組織の敵じゃないか」
「おい、もしうまいことやれば……」
「組織のボスに差し出せば……」
誘拐して身代金の算段が付いた瞬間、男たちの動きは早かった。全員が男の太ももに狙いをつける。
「殺しはしない。大事な命だ。だが、少し痛い目にあってもらう」
「おやおや、それはご親切にどうも」
男たちの後ろに揺らめく陰に思わず社長の顔はほころんでしまった。
あぁ、愉快なことが起きると、ついこの癖が出てしまう。
男たちが訳が分からないまま倒れていくのを光景を、社長はただ一言も発さず見つめていた。
時間にして10秒も満たない。
相変わらず、自分の秘書は優秀である。
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