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振り返ると、一の妃が侍女を従えて立っていた。とっさにわたしはひざまずき、頭をさげた。
「聞いたことのない歌。すてきね、こんど聞かせて」
「あ……これは」
わたしの言いかけた言葉をさえぎるように、妃はわたしの前をかすめて横切り窓から外を眺めた。
「王はこのところおいでにならない」
妃は王よりも二つ年上で、皇子・皇女はすでに成人している。たおやかというよりも、骨太な美しさを持つ方だ。
「市街にあのような者たちが目立つようになるなんて。なにか悪いことを考えていなければいいのだけれど」
あのような者と妃が言うのは、商人でもなく農民でもなく、武人くずれのようなものを指していた。ほんらいならば、門の付近にだけいて王宮に近い街の中心部までは入って来られない慣わしだったのだが。
「東の姫の従者を追い返してしまったし」
姫の従者たちはもう故国へ戻りついたころだろう。その意味を大国の王はどのように受け取るのだろうか。小さくとも、火種とはならないだろうか。
「……東の将軍は切れ者と噂されているの、知っている?」
わたしの考えを見透かすように、妃は言葉をつづけた。
「王位からは遠く離れた皇子らしいのだけれど。勇猛なだけでなく、いくつもの言葉を操るほど賢い者だとか」
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