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静まり返った後宮に、王宮へと訪れた隣国の使者たちの足音がかすかに響くばかり。
いつの間にか王宮の片隅に営舎が造られ、見慣れぬ風体の者たちが住まうようになった。ぼさぼさの髪に鍛えた体を見せつけるように半裸でうろつき、時おり下卑た大声や言い争う声が聞こえる。正規の兵士たちとはちがうがさつさに、大きな音がするたび、女たちは肩をすくめ身をよせ合い、幼い王子王女は乳母の胸に顔をうずめる。
姫はお元気だろうか。表情に乏しい姫がウードを弾き終えたときの笑みが忘れられない。
また呼んでいただけないだろうか。そしてあの歌を聞かせては、くれないだろうか。
ただ、わたしは密かに確信していた。あれほどの歌い手が歌うことや楽器を弾くことを我慢できないだろうと。
おそらく姫は長い間、耐えておいでだったろう。他の楽士が呼ばれたとは聞かない。歌のことは、あまり知られたくはないのだと感じた。
ならば、またわたしに声がかかるはずだ。
その時が来るのを待つしかない。
もう一度会えたなら、わたしには、姫に請い願うことと、確かめたいことがそれぞれ一つずつあった。
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