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かすかに姫の眉が動いた。
「歌ならば構わないのです。けれど、人と話をするのは苦手です。この声ですから」
みな奇異に思うのだろう。ひとかどの男に見えて、声変わりをしていない、まるで子どものままなのだから。そして声を保つために去勢していると分かると、とたんに人々の態度は変わる。
髭の生えていない頬や、男にしてはひ弱に見える体つき。
それを理解したとたんに、無遠慮な言葉をぶつけてくる者や、歌い手のほかの『なりわい』を勝手に邪推し、まるで体をなめ回すような視線を送ってくる者もいる。
「歌うときのほかには、あまり声を聞かせたくないのです。失礼を承知で申し上げますが、もしや姫さまも同じなのではないですか」
ウードをわたしに返す時に聞いた姫の声は、ひどくしわがれていた。彼女の歌声は裏声ではないだろうか。姫はわたしの問いかけに、微動だにせず両手を前につきだしたままだ。
角張った顔の輪郭は、よく見ると頬骨と顎のとがりが以前よりも目に付く。姫は、いつのまにか痩せていた。絹の袖口からのぞく手首の細さが痛々しい。
「それに……もしや姫さまはわたくしたちの言葉が分かるのではございませんか?」
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