東の姫

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 中庭の泉から水が流れ落ちる音と、棗椰子の葉のざわめきが聞こえていた。壁に囲まれた四角い空間だけ、別の世界にあるように感じた。 「…………!」  しわがれた声にわたしは現実に引き戻された。不意に姫はウードをわたしに押し付けてきた。そして立ち上がると、あともみずに隣の部屋へと歩み去ってしまった。  ひとり残されたわたしは、夢から覚めたときのようで、立ち上がるとまるで雲の上でも歩いているようにおぼつかなく感じた。  外の扉を開け侍女と入違った。 「先ほどの歌は初めて聞いたわ。とても美しいわね」  侍女はわたしが歌ったものと、疑いもしなかった。
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