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手ほどき 1
後宮の女たちは退屈していた。
王のお見えがここ一月(ひとつき)・二月(ふたつき)でとみに少なくなったから。
乾季が終わり雨季を迎え緑萌えたつ季節が巡り来たというのに、王は毎日同じく同盟関係にある近隣諸国の大使や使者と額をあわせて何事かを話し合ってばかりという。
潤う肌に磨きをかけ、美しさで王の寵愛を競いあっていた女たちから張り合いが失われていた。
妃や姫たちは退屈な日々に倦み、目新しいものを欲しがった。渡りの軽業師、珍しい物語を聞かせる吟遊詩人、遠国の菓子に花。きらめく美しい細工もの、聴きあきた歌ではなく新しい歌。
一の妃の部屋へ何度か呼ばれて新しい歌を求められたが、わたしは歌えなかった。
歌いようがなかった、というのが正しいのだけれど。
苦し紛れになじみの曲を弾いては、妃たちの退屈した顔を拝む羽目になるのだった。
わたしに何ができるというのだろう。
東の姫の部屋へ押しかけることなどできるはずもない。ただ耳の底に残る姫の歌をなんどもなぞり、ウードをつま弾く。
師匠から、耳の良さだけは褒められたわたしだ。だからといって、一度聞いたきりで歌をすべて覚えられるわけがない。
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