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手ほどき 2
再び訪れた姫の部屋は、一月前と変わっていなかった。室内に炊かれた香は、桂皮をふくんだ甘い香りがした。
姫は中庭を背に唐草模様の絨毯のうえにクッションを重ねて座っていた。長い黒髪をひと房ずつ顔の両側にたらし、残りは後ろに簪で結い上げていた。
わたしが部屋の中ほどへと進むと、前回と同じように侍女を退出させた。
姫は自身よりも年上の侍女が姿を消すのを耳をすませて、慎重に待っているようだ。糸を引いたような細い目は、ひたとわたしを見つめたまま動かない。
わたしの胸は誰かに握られたように、ぎりりときしんだ。……謀はうまく運ぶのか、それとも不敬罪と取られて首が飛ぶか。
やがて扉の閉まる音が背後でした。
姫はまた無言で両手を差し出した。
「姫さま」
静かに姫の正面にひざまずいたわたしは、深く息を吸い気持ちの高ぶりを押さえた。
「ウードをお貸しする前に、ひとつお伺いしたいことがございます」
姫はわたしの甲高い声に驚かれたのか、かすかに目を見開いた。
「姫さまは、わたしの声を奇妙に感じるやもしれません。ええ、見てくれどおり、わたくしの齢は二十七です」
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