(三)

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「どなた? どなたですか?」  二度ほど声を掛けてみたが、何の返事もない。やむなくロックを外して開けてみた。やはり、誰も居ない。ドアの郵便受けに回覧板を見つけた。、どうやらお隣さんのようだ。いちいちドアをノックしなくても良さそうものなのに、と少々苛立った。  確かに「互いに声を掛け合いましょう」と、自治会で決議されはしたけれども。大げさなことをと思いはしたが、役員連の真剣さに気圧されて賛成してしまった。しかしそんなことにいちいち目くじらを立てていては、この団地で平穏な生活など出来はしない。隠忍自重、穏忍自重と、己に言い聞かせている。  兎にも角にもざっと回覧に目を通して、資源分別回収――以前には廃品となっていたが、いつからか資源分別と名前が変わった。確かに再資源化するとの意味ではそうなのだが――の日付を確認した。  再来週の土曜日となっている。  そういえば、資源分別回収では苦い思い出がある。何が原因だったかは覚えていないけれども、些細なことからだったと思う。その場を取り仕切っていた男と口論となり、持ち込んだ古着の回収を拒否されてしまった。
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