空と宙の境界線

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吾輩はフルート。 生まれも育ちも由緒正しき雑種猫である。 好きな食べ物は鶏肉である。ご主人は鶏肉を食べさせてくれることは少ないが、あの食感はクセになる。たまらないのだ。 ふむ? 妙に人間臭い喋り方をする猫だと? 逆に聞き返すが人間とは猫臭い喋り方をするのだなぁ、と猫が思っているかもしれないなんて考えたことはないのだろうか。 人間には猫が何を喋っているか分からないかもしれないが、猫には人間が何を喋っているのか理解できているのだと考えれば、はてさて猫と人間、どっちの方が賢い種族なのだろうなんて吾輩はそこまで愚かな猫でもない。生き物に上下などないことくらい知っている。 それに人間は好きだ。特に優しきご主人は大好きである。 ご主人は気の弱い青年だった。大学院とかいう所で天体の研究をしているらしい。賢い吾輩は知っている。天体とは空に浮かぶキラキラとした星のことだ。だが、天体の研究なんぞをして果たしてそれに何の意味があるのか、それは知らない。どうやらご主人の友人も吾輩と同じような感想を抱いているらしい。 「お前は本当に星が好きだな。そんなことやって何の意味があるんだ?」 ビール(吾輩が舐めようとすると怒られる奴だ)を片手に友人が笑った。 ご主人も笑っている。 「意味なんてないかもしれない」 小さな声で友人の指摘に同意した。 頬を掻くその顔は照れくさそうに微笑んでいた。 「だけど僕は星を調べないではいられないんだ」 ご主人は傍らにいた吾輩の横腹をさすった。横腹を撫でられるのはあまり好きでなかったが、特別腹を立てるほどのことでもないので、そのまま撫でられるがままにしておいた。
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