prologue

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人間だれしも、忘れられない恋の一つや二つ、あるんじゃないだろうか。 身を焦がすほどに燃え上がった恋。 穏やかにただひたすらに想いあった恋。 愛情が愛憎に変わり傷付けあった恋。 そして。 まだ幼くて……愛に変わることなく儚く散ってしまった恋……。 どんな恋であったとしても、何一つ無駄なものなどない。 その気持ちは人を大きく成長させ、本当の愛へと導いてくれるものだ。 世間一般でよく聞くこの言葉は、一体いつになったら私に当てはまってくれるのだろう。 忘れたくても忘れられない。 追い出したくても追い出せない。 長いこと私の心を捕らえて離さない。 もう顔さえうろ覚えの幼い彼は、今も私を縛り付ける。 どんなに月日が流れても色褪せてくれない彼との思い出は、今の私にとっては足枷でしかないというのに。 そう……私は初恋を完全にこじらせてしまっている愚かな女だ。 だから今だって、こんなことになってしまっているんじゃないか。 柔らかな日差しを浴び、とても雰囲気のいいジャズが流れるカフェテリアの店内で、私と彼……。 正確にはつい先ほどまで彼だった男性と、店とは正反対の雰囲気でテーブルを挟み向き合っていた。 溜め息をつくことさえも許されない重苦しい空気の中、私の頭の中でグルグル回っているのは、申し訳ないが彼のことではない。 周りが会話の内容に気が付く前に店を出たい。 それだけだった。
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