prologue

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温かみのある木を基調とした店内は、深みのあるコーヒーの香りが立ち込めていて、普段ならばとてもリラックスできるだろう。 しかし今、私はリラックスできるような状況ではない。 なぜならば。 「茉莉香、俺の話聞いてんのか?」 不機嫌そうに眉をしかめて溜め息交じりに彼、原田純一は強い口調でそう言った。 「聞いてる。……純一がそうしたいなら仕方がないことよ。……別れよう」 私は今、10ヵ月付き合った彼から別れを切り出されている最中だからだ。 「俺がそうしたいからじゃないだろう?お前がそうさせたんじゃないかっ」 「声が大きいっ」 ただでさえ店内に不似合いな雰囲気を纏っていた私達なのに、純一の荒げた声で他の客からの注目を集めてしまった。 ああ……この場から一刻も早く立ち去りたい。 この期に及んでそんなことしか考えられない私は、もう恋愛なんてしない方がいいのかもしれない。 「茉莉香はいつもそうだよな。どこにいてもなにをしてても、俺のことなんて全然見てないんだよ」 「そんなこと……」 『ない』とはっきり断言できないこと自体、純一の言葉を肯定している証拠だろうか。 「最初はそれでもいいと思ってた。付き合っていくうちに、いつかは俺のことを本気で好きになってくれると信じてたからだ」 ……だったら最後まで信じきってくれればよかったのに。 そう思ってしまうのが、私の一番最低なところだ。
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