prologue

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本当はちゃんとわかってる。 純一が求めている言葉がこれではないことくらい。 しかし私にはこんなことしか言えなかった。 「茉莉香は俺じゃない誰かを求めてるんだよな?」 「え……?」 純一の言葉に私の鼓動が大きく跳ねた。 「俺を誰かの代わりにしようとしてただろ」 「そんなことしてない。私はちゃんと純一と向き合ってた」 「じゃ、逆なのかもな。誰かを忘れるために俺と向き合ってたってことなのかも」 「純一……」 それ以上否定できなかったのは、間違いなく違うと言いきれなかったからかもしれない。 だってそれは、今まで何度も言われてきたセリフだったから。 フラれる時はいつも決まってこう言われてしまう。 私の心の中に、他の男が住み着いている……と。 「茉莉香のこと、俺は本気で好きだったんだ。もちろん結婚だって考えて付き合ってきた。だからこそ、これ以上は耐えられない。ごめんな」 純一は俯いて深い溜め息をつくと、テーブルに伏せてあった伝票を手に取り、私と視線も合わせずに立ち去った。 私に『ごめんね』も『ありがとう』も言わせてくれずに。 店内の客の視線が私一人に注がれるのを感じ、いたたまれない気持ちになった。 純一と別れたことよりも人の視線が気になるなんて、本当にどうかしている。 私、橘茉莉香(タチバナマリカ)27歳。 そろそろ恋愛を諦めた方がいいのかもしれないと痛感した瞬間だった。
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