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あーだこーだ言いながら三宮と二人で教室に戻った途端、クラスメイト達から注がれたのは熱い視線。
「それじゃあ…一馬くん、また後でね」
「あ?お、おう」
恥ずかしそうに俺の服の裾をつまんだ三宮は、小さな声で呟いて自分の席に戻っていく。
返事に詰まったのは、可愛い女の子的な仕草も含めた一連の流れが全部演技だと知っているせいだ。
この悪党め。コッソリ鼻で笑ってんの見えてるぞ。
心の中でツッコミを入れたのと同時に、俺の周りには人だかりができる。
女ではなく、むさ苦しい男の群れだ。
男達の双眸は俺の手元を捉えて離さず、ハート型の箱は一瞬のうちに注目の的となった。
「おい、津田。それ…もしかして六花ちゃんの手作りチョコか?」
「まぁな」
みんなを代表するように、いつも騒がしいお喋り野郎の井上が興奮気味に聞いてきた。
そんなにキラキラした瞳を向けられてしまうと、チョコに見せかけた石だなんて口が裂けても言えない。だから適当に相槌を打つことにする。
放っておいてほしい気持ちとは裏腹に欲望の塊と言う名の飢えた男達は散る気配すらなく、しまいにはどんどん詰め寄ってくる始末。
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