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3年前・ガウィン
ガウィンはブラン王国の剣士隊の一員だった。
「「「祝福と、そして感謝を」」」
王都の正門が開かれてみれば、凱旋した剣士隊に向けて、溢れるような感謝の声が降り注ぐ。石造りの王都の建物群は、そうした声をよく反響させてくれる。それを受けた剣士隊は一列に並び、その声に耳を澄ませながら、出迎えに対して深く頭を下げる。
民は感謝を、そして剣士隊は礼を。
それがブランの剣士隊が帰還した際のならわしなのである。
そのならわしが、ガウィンはとても心地良かった。
所詮、剣とは人を殺すための道具だ。
ガウィンはそう思う。
敵国の人間とはいえ、己の剣によって何人もの、何十人もの首を斬り落としてきた。
そこには後悔がある。
民の感謝は、その後悔が無駄ではないことを思い知らせてくれるのである。
勝手ではあるが、己の信念が救われる気がしたのである。
「さあ、胸を張って王都に帰ろう。ガウィン」
同じ剣士隊の戦友であるクロムに促され、ガウィンは「おう」と、ひたむきに勢いのよい返事をした。
すると、
「どけよ。邪魔だ」
と、背後から無礼な声がある。
振り返れば、おおよそ戦には似つかわしくない祭事礼装に身を包んだ連中が立っている。
魔法隊の連中である。
魔法隊は民衆に何を返すでもなく、剣士隊を追い抜いてさっさと王都の中に入っていく。
「まったく、無礼な連中だ」
クロムが苛立ちを覚えながらに言う。
「幻術か、占いまがいのことしかできねェからな。だから誇りも何もねェのさ」
ガウィンもまた不機嫌に言い捨てた。
ガウィンが言った通り、この時代の魔法とは生活の補助としての役割が殆どである。戦争においてはほぼ無力と言ってもいいモノ、というのが常識だった。
剣士隊はあきらかに魔法を見くびっていた。
だからこそ腹が立つのである。
どうして王は魔法隊などという価値のないモノを新設したのか。
ガウィンはそれが図りきれずに、魔法隊の背中を睨みつけながら、王都に帰還したのだった。
だが、再びの戦場で、ガウィンは王の意図と、魔法隊の真価を知ることになる。
ガウィンだけではない。
新たなる時代。
その変遷の特異点が迫っていたことを、この時はまだ剣士隊の誰もが気づいてはいなかったのである。
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