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2年前・混迷
いつしか、魔法は剣に代わって、戦いの華となった。
圧倒的な破壊力。
それにより、ブランは周辺の国々を次々と制圧していったのである。
大衆はすでに剣士に対して一切の感謝もない。
感謝が向けられるのは魔法師だけだ。
戦に呼ばれる機会も減った。
それでも、剣は握らねばならない。
魔法隊が北への遠征に出たその日、ガウィンは修練場に立ち、剣に見立てた丸太棒を振るっていた。
一心不乱だった。
ただ、丸太棒を振るい続けた。
最近ではどうにも剣が軽く思えて仕方ない。
「ガウィン」
呼ばれて、ガウィンは丸太を下に置く。
振り返れば立っていたのはクロムだった。
「ずいぶんと思い詰めた顔をしているな」
クロムに言われて、ガウィンは何も答えなかった。
ガウィンは汗だくの服を脱ぎ捨てる。
上半身を顕わにして、修練場のはじに置かれていた木剣を二本拾った。
一本は自分で握り、
そしてもう一本はクロムへと放り投げた。
木剣を受け取ったクロムは、ガウィンの心持を察したのだろう。
静かに深呼吸して木剣を構えた。
下段に剣を置く、揺れる波のようなリズムの構え。
その精錬された構えからは、クロムの血のにじむような鍛錬が、痛いほどに窺えた。
対するガウィンはどうだ。
剣が軽い。
まるですぐに折れてしまいそうだ。
足がふらついて、立ち位置がおぼつかないのだ。
溜息を飲み込んで、ガウィンはクロムに向き合った。
……クロムは何を思って今の時代に剣を振るうのか……?
……そして、俺は……?
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