幻惑

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幻惑

もう、剣士隊と、 戦と絡むことなど二度とないのだろうと、 そう思っていた。 森の暮らしにもずいぶんと慣れた。 ガウィンはもうすっかりと獣獲りとしての生活に染まっていた。 あの男が現れたのは、そんなある日のことであった。 その日はひどく星のきれいな夜だった。 ガウィンは小屋の前で、昼間に獲った大鹿(おおじし)からはいだ皮をなめしているところだった。 ちらりと王都の方角の空を見る。 星空を食い破るように、魔法の光が煌々として見えた。 3年前には考えられなかった光景だ。 ガウィンは大きなため息をついて、作業に集中する。 だが、すぐにハッとなって顔を上げた。 人の気配がする。 ガウィンは腐っても元兵士である。 しかも多くの戦の先陣を切った勇士だ。 不穏な気配には敏感なのである。 気のせいではない。 ガウィンは身構えた。 こんな夜に森に入ってくる人間が、とうていまともであるはずもない。 「誰だッ?」 叫ぶように、暗闇へと問いかけた。 ゆっくりと、まるで闇から滲み出してくるかのように、現れたのは1人の男だった。 黒いローブをまとった、陰気な面構えの男。 腰には剣を提げていた。 「なかなか素敵な新居じゃないか」 と、笑いもせずに男は言った。     
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