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ああ、くさい。
押入れの中の匂いが強烈なものとなっている。中には、姉の死体がある。
伊藤から電話をもらう二日前、珍しく姉が僕のアパートにやってきた。そこで、郵便ポストに入っていた大学からの通知を見たのである。内容は、留年のお知らせ。
姉は激高した。あんな大学、留年しているんじゃないわよ。姉にとっては『あんな』大学かもしれないが、僕としては精一杯の高望みであった。奇跡的に入学できたまではよかったが、授業の内容は難しく、友人もろくにできなかったため、だんだん大学から足は遠のいた。辛うじて二年生にはなれたものの、三年生には進級できなかったのである。僕を非難し、罵倒する姉の頭に傍にあった辞典を叩きつけたらそのまま動かなくなった。
だから、動画の女性が姉であるはずはないのだ。あれが作り物であれば、姉があんな馬鹿げたものの撮影に参加するはずがない。あれが本物であれば、姉であるはずがない。姉はここで僕に殺されているのだから。
ああ、くさい。しかし、換気はできない。窓を開ければ、この死臭が隣人にまで届いてしまう。いや、この匂いだ、もう不審に思われているのかもしれない。
遠くから、パトカーのサイレンの音が聞こえてきた。
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