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第6話 幽霊おろく
(一)
暗闇の中を緩やかに流れる川の水が、幽かな、しかし無数の明かりに照らされてうっすらと光を帯びている。川面の上をふらりふらりと飛んでいるのは数百数千の蛍……いや、人魂だ。生の国から死の国へと旅を続ける数多の魂達。その中を一艘の舟がゆっくりゆったりと流されていく。
流され行く舟をなぜかおろくは上から見下ろしていた。
舟の上には誰かが横たわっている。それはおろく自身だった。
舟の上のおろくは眠っているのか死んでいるのか、固く瞼を閉ざして微動だにしない。傍らには、左之吉も、骸骨の船頭もいなかった。
おろく一人の体を乗せたまま、舟は下流へ向かって滑るように進んでいく。
(待って!)
おろく自身を見ているおろくの意識は叫ぶ。しかし、声にはならない。その場から動くこともできない。
(起きて……お願い!)
おろくは舟の上で眠る自分自身に呼びかけるが、やはりもう一人のおろくは目を閉ざしたまま動く気配がない。
その時、おろくは気がついた。自分が、川の上をたゆたう無数の人魂の一つになっていることに。
おろくの意識が見ている「おろくの体」は魂が抜け出た後の抜け殻なのだ。
おろくは死んだのだ。
「おろくの抜け殻」を乗せた舟がだんだんと遠のき、やがて闇の向こうに消えていくのを、おろくの魂はなす術もなく見送った。
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