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嫌い嫌いも好きのうち
「フーガっ」
2月中旬、ここらでは珍しく雪が舞い散る木曜日。
大学のゼミ研究をそこそこに切り上げて後、午後6時からの毎週恒例バンドの練習にやってくれば、我がバンドの紅一点、近藤 妃来里(ひらり)サマはご機嫌斜めだ。
「何?」
つられてムッとするのは許してほしい。
ヒラリははい、と、大きな紙袋をぶっきらぼうに俺に突き出すと、用事はすんだとばかりに踵を返して第一スタジオへと進んでいく。
時間にルーズなほかのメンバーはまだ来ていない。
「私、宅配サービスやってないって、アンタの口からファンに伝えてくれてもいいと思うんだよね」
自分のキーボードを準備しながら、俺のほうには目もくれずにヒラリが言う。
「俺は別に、プレゼントが欲しいなんて誰にも言ってない」
勝手にファンと称する子たちの差し入れを持ってきたのはそっちじゃないか。
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