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「お疲れー」
しばらくたったら、ドラム、ベース、ギターの三人が申し合わせたようにスタジオに入ってきた。
俺はボーカル兼ギター。これが、大学の軽音楽サークルで集まった、俺たちのバンドの構成メンバーだ。結成して次の四月で丸二年になる。
「お疲れ様。
私、君たちのチョコレート預かってるんだよ?
バレンタインに練習なんて入れるんじゃなかったー」
俺に対する時と違って、ヒラリの口調には怒気がない。
可愛げのあるサイズの紙袋を、メンバー一人一人に手渡していた。
「じゃあ、練習終わったら確認して気持ちだけは受け取るから、そのあとにヒラリちゃん好きなの持って帰って。ゴディバもジャン=ポール・エヴァンもピエール・マルコリーニもあるよ」
ドラムのタクトの言葉に、ぱあっとヒラリの顔が華やいだ。
ほかの二人もうなずいている。
俺と二人きりの時にはほとんど見せてくれることのない、素敵な笑顔に胸がきゅんとなりそうで強引に視線を逸らす。
「次のライブ、ホワイトデー直前だったよね?
そこで、お礼のお菓子でも配る?」
三人のセッティングの様子を眺めながら、ヒラリが言う。
「ついでに、今、フーガから新曲もらったから、いやがらせみたいな甘い歌詞つけてきて歌わせちゃおうよ。
ファンがきゃあきゃあ言っちゃう歌詞、私考えてくるから」
本人の目の前でいやがらせの相談とは、いい度胸だよな、まったく。
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