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(ヒラリ視点)
「田中先輩、インフルエンザなんだって」
休憩の時、飲み物を買いに行って戻ってきたタクトが雑談ついでにそういった。
田中先輩は、サークルの一つ上でこのスタジオで受け付けのアルバイトをしている。
「じゃあ、今は誰が受付にいるの?」
「久しぶりに平石さんが立ってたよ」
平石さん、というのはこのスタジオのオーナーで私たちのサークルのだいぶ上の先輩でもある。このスタジオのほかに、都内のライブハウスも持っているので芸能人との交流も深かった。最近は、そのオネエキャラが受けてついにテレビの深夜番組にも進出している。
私は、カバンの奥底で行き場をなくしていたチョコレートの有効な使い道を思いついて、スタジオを後にする。
「平石先輩、お疲れ様でーす」
受付にほかに誰もいないことを確認して、すぐに挨拶に行く。
先輩は、テレビに出るときと違ってノーメイクで、ジーンズとニットを身に着けていた。こざっぱりして男前に見えるけれど、溢れ出る女性味は隠しきれてはいない。
「ヒラリちゃん、お疲れ。
今日はエターナルブルーの練習なのね」
「そうなんです。
先輩に会えるなんて嬉しいです。
これ、ちょっとした差し入れです」
可愛くラッピングしてあるチョコレートを手渡すと、先輩は一瞬目を丸くした後破顔一笑した。こぼれる八重歯が愛らしい。
「ちょっとこれ、ワインに合うって噂の幻のチョコレートじゃない。
北海道までいかないと売ってないってきいたわよー。
どうやって手に入れたのよ」
「それは秘密です」
「でも、受け取れないわー」
「どうしてですか?」
「だって、どうみたって本命用に準備したものでしょう?」
さすが、趣味が恋愛相談と豪語しているだけあって、先輩は鋭い。
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