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「でも、渡せなくなったんでいいんです。
平石先輩にはお世話になってるけど、ここ、食べ物の差し入れは禁止って聞いてたんで、偶然お会いできて嬉しいんです。
……受け取ってもらえませんか?」
仕方ないわね、と、先輩は肩をすくめた。
「こんなに特別なチョコレート、断れるわけないでしょ。
でも、渡せなくなったってどういうことよ。
その説明は聞く権利あると思うけど?」
「その人、山のようにチョコレートもらってるから、これ以上もらっても多分迷惑なんです」
「それだけじゃ、ないわよね?」
鋭い視線には逆らえない。
「告白して、何もかも壊してしまうよりも黙って現状維持がいいなーって思っちゃったんです」
私は心の内をそっと吐露した。
「ほんっと、バンド名からして、エターナルブルーなんて青臭いなぁって思ってたけど、そもそもヒラリちゃんの思考が青臭いのねー。
仕方ないなぁ、このチョコレートに免じてアドバイスを送ってあげる。
いい? あなたも今は若くてかわいくてこの世の春って感じだろうけど、うかうかしてるとあっという間に時間は流れて気づけば閉経しちゃうのよ。黙って現状維持がいいって言ってるけど、貴方がぼやぼやしていたって、時間も物事も流れて変化しちゃう。欲しいものがあるときは素直に動いたほうがいいと思うわよ。老婆心ながら、ね」
あっけにとられている私に、先輩はホワイトデーまで待ってられないからこれどうぞ、と、チケットを二枚渡してくれた。
「代わりにこれ持って、その人誘って行ってきたら?」
それは、私たちがバンドでコピーしたこともある海外の有名バンドのコンサートだった。一瞬で売り切れて、入手困難だった幻のチケット。
「え、本当に?」
「気が変わる前に持って行っちゃって。サービスで、今日にぴったりの封筒もつけてあげるわね」
私はぺこりと頭をさげると、チョコレートの代わりに先輩がくれたチョコレートの包み紙っぽい可愛いデザインの封筒にプレミアムなチケットを入れ、カバンのなかにしまって練習に戻ったのだった。
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