24人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
「フーガ
……これ」
食後のコーヒーを飲み終えた後、それまで、何度も何度も何か言いかけてはあきらめたかのようにため息をついていたヒラリが小さな包みを出してきた。
薄いが、可愛らしいブラウンとピンクの色合いの包み紙。
……チョコレート?
胸がどきんと高鳴る。
『本日のチョコはただのチョコじゃないの。気持ちなのよ。
「フーガくん、大好き」
っていう気持ち……』
先ほどの、ヒラリの言葉が否応なく頭の中によみがえる。
けれど、その包みを開けたのはヒラリ自身で。
もらえなかったことと、中身がチョコレートではなかったことに、勝手に落胆してしまう。
「まさかの、プレミアムなチケット手に入れたの。
二枚」
伏目がちな彼女から、その表情が何を意味しているのかよくわからない。
でも、見せられたチケットは、それはもう俺たちみんながどうやっても手に入れることができなかった、東京ドームで行われるあのバンドの来日公演のチケットだってことだけはすぐにわかった。
最初のコメントを投稿しよう!