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「……良かったら、一緒にいきませんか?」
驚くほど、か細い声も、他人行儀な口調も、およそヒラリのものとは思えなかった。
潤んだ瞳。
逸らされた視線。
そして、震える指先。
ああ、なんで気づかなかったんだろう。
こんなに傍で、君のことをずっと見ていたつもりだったのに。
「喜んで」
他にももっと、気の利いたことが言えると思っていたのに、胸が一杯になってその一言が精一杯な自分に驚く。
ふわり、二人の視線が絡んでホッとしたようにヒラリが笑った。
きっと二人、同じくらい熱い気持ちを持ち合ってるんだって、伝わっただろうか。
そんな都合よくいかないか。
きっと、ホワイトデーまでに。
いや、このアーティストのコンサートの日までに。
好きだよ、と、勇気をもって伝えよう、と、決めた俺は、いまだに震えるヒラリの指をそっと自分の手で包み込んだのだった。
Fin.
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