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山を掘る手が次第に止まっていた。そんな俺に気づいた男の子は心配そうに聞いてきた。
「どうしたの?おなかいたい?」
「いや……俺の家とは全然違うなって思って……」
「おにいちゃんのママとパパはちがうの?」
「ああ、全然違うな……」
俺は母さんと遊んだ記憶なんてないし料理だってお抱えのコックがいるから母さんが作ることもない。父さんだって仕事ばかりで休みの日にどこかへ連れていってもらった記憶もないし運動会で一緒に走った記憶もない。
その代わり勉強勉強と色々な教材だけは渡される。そんな男の子の言うような思い出なんて一切なかった。
俺は……
「俺は母さんと父さんにとって一体どんな存在なんだろうな……」
「おにいちゃん……ん!」
俺は下を向いて涙をこらえた。自分より年下の男の子に泣いてる姿なんて見せたくなくて目に力を入れて涙を零さないようにしていた。
そんな俺の手に何かが触れた。それは小さくてでも暖かかった。
顔を上げると男の子と目が合いニカッと笑ってくれた。
「あのね、ママがいってたんだ!ママはぼくとあえてはじめてママになれたんだって!ぼくがすきだからぼくにママってよばれるとうれしいんだって!ぼくのこときらいだったらママってよばれてもやだなんだって……おにいちゃんのママはやだっていってたの?」
「言われてない……」
「じゃあきいてみなよ!じぶんいがいのきもちはきかないとわからないんだって!きくのがこわかったらぼくもいっしょにおにいちゃんのママにきいてあげる!」
砂でできた山の中で触れていた手が握られた。俺を安心させるように何度も何度も力を込めてギュッとされた……
こんな小さな男の子に、自分よりも年下の男の子に慰められてしまった。言ってることは所詮愛されてるから出てくる言葉であって何一つ理にかなっていないこともわかってる。それなのにこんなにも心に入るのは男の子の笑顔と手の温もりがそうさせているのかもしれない。
男の子は俺が泣き止むまでずっとそのままでいてくれた……
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